学級日誌

 高校三年生のとき、うちのクラスは「日直」ではなく「週番」というシステムが取り入れられていた。要は日直の仕事を各生徒が「日替わり」ではなく「週替わり」で交替するのである。

 

 その週番が、僕とある女子にまわって来た。僕はその女子に「学級日誌は全部オレが書くよ」と言って引き受けることにした。そして、本来であればその日の天気・行事・授業内容・課題などを書くべきその学級日誌に、僕は勝手に連載小説のようなものを書き始めた。クラスメイトの一人が殺害され、残りのクラスメイト全員が容疑者となるミステリーである。全員実名で登場する。

 

 それをクラスのみんなが毎日回し読みしてくれた。「続きが気になるから早く書け!」「犯人誰なんだよ?」「まさかあたしが犯人じゃないよね?」「おいおい、なんで俺が殺されてんだよ!」etc. 僕がオリジナルの創作を人目に晒す初めての機会だった。

 

 一週間経ち、物語は完結した。みんな自分が登場するからか、最後までわりと面白がって読んでくれた。しかし、週末にはその学級日誌を担任に提出しなければならないのだ。困った。その場のウケを優先して、後先を考えない僕の悪い癖である。でも、仕方ない。僕はそれをそのまま担任に提出した。

 

 案の定担任から職員室に呼び出された。叱られて当然だ。学級日誌に書かなければならない情報は何一つ書かれておらず、その週だけびっしりと殺人事件の物語が書かれているのである。僕はゲンコツの一つでもくらう覚悟を決めて職員室に向かった。

 

 職員室に入ると、担任はじっと学級日誌を読んでいた。僕は怒られる前に謝っちまえとばかりに「すみません!」と頭を下げた。すると担任は顔を上げ、「関根、これ面白いな。文集に載せてもいいか?」と言ってくれた。そして、後日担任はその全文をワープロで打ち直して本当に卒業文集に掲載してくれた。

 

 思えばあのとき先生にこっぴどく怒られていたら、僕はそれに懲りてその後文章なんて書かなかったかもしれない。あのとき先生が褒めてくれ、ワープロで活字化してくれたことが嬉しかったから、今も書き続けているのかもしれない。自分の書いたものをクラスメイトが面白がって読んでくれたことに味をしめ調子に乗ってる僕を、先生が頭ごなしに否定せず、「ルール違反だ」とも言わず、拾い上げてくれたからこそ今の自分があるのかもしれない。

 

 その先生にはしばらくお会いできていないのだが、先日の新人賞受賞のことを報告するため久しぶりに手紙を送った。あの先生にだけはちゃんと報告したかった。嬉しい報せを伝えたいと思える恩師は僕にとってあの人だけだ。

 

 先生からはすぐに返事が届いた。とても喜んでくれていた。先生の近況も知ることができ、手紙を書いて良かったなと思った。

 

 でも、その手紙には実を言うと上記の「学級日誌」の話は書いていない。ちょっと照れくさいし、長い話になるし、手紙では感謝を伝えきれないような気がしたから。

 

 だからこの「学級日誌」の話は、いつか先生と再会したときに自分の口でちゃんとお伝えしたいと思う。来年くらいにその機会がありそうなので。

「短歌の時間」に掲載されました

f:id:sekineyuji:20170408140144j:plain

 

4月8日発売『公募ガイド 5月号』P.125

「東直子の短歌の時間 題詠:木」

に短歌が掲載されました。

どうもありがとうございます。

今月は短歌の特集号です。

 

公募ガイド 2017年 05 月号 [雑誌]

公募ガイド 2017年 05 月号 [雑誌]

 

 

 

第51回詩人会議新人賞を受賞しました

f:id:sekineyuji:20170402152433j:plain

 

「秋の匂い」という詩が第51回詩人会議新人賞を受賞致しました。

心より感謝申し上げます。

「詩人会議5月号」に作品と受賞コメントが掲載されていますが、

こちらのブログでも以下にご報告させていただきます。

どうもありがとうございました。

 

 

【受賞作】

 

 

   秋の匂い

 

バス停の錆びたベンチに腰かけて

通り越しの街路樹を見ていた

銀杏の葉たちはすっかり色づき

風の冷たさから身をまもるように

たがいに折りかさなっている

 

「おとなりいいですか?」

犬を連れた女が横にすわる

女は黄葉には興味のないようすで

うつむいたまま犬の頭を撫でている

「立派な犬ですね」

「ムサシっていうんです」

 

銀杏の葉が一枚

風にはこばれて足元に落ちる

ムサシは食べられるか確かめるように

ふぬふぬ鼻を近づけている

腹がへっているのかもしれない

 

湯気をまとった焼き栗売りが

リヤカーを曳いて通りかかると

女は目を伏せたまま

「あ、秋の匂い」とつぶやく

それでようやく気がついた

ムサシが盲導犬であることを

 

わたしは栗をひと袋もとめ

五つほど女の手に握らせる

女は礼を云うと器用に皮を剥き

指先でほぐしながらムサシにやる

犬も栗を食べるとはじめて知った

 

ふいに女は顔を前に向ける

つられて同じ方を見ると

ちょうど雲間から顔を出した落日が

銀杏の葉群れをすかしている

女はわたしより早くそれに気づき

ひとみにこがね色をたたえながら

まっすぐ光の方を見た

 

 

 

【受賞コメント】

 

 この度は歴史の深い名誉ある賞をいただき本当にありがとうございます。作品が自分の子どものようなものだとするならば、この賞は僕自身というよりも、「秋の匂い」という子どもがいただけたものと受け止めております。ですからご連絡をいただいたときには、我が子の頭を撫でながら「おまえ、良かったなあ」と声をかけてやった次第です。親としましては、子の独り立ちに勝る喜びはありません。と同時に、これからはこの恵まれた兄を超えられる弟や妹を生み育てていかなければと、一層身の引き締まる思いでおります。僕は自分の子どもたちをなるべく親しみやすい子に育てたいです。立派な子よりも人の気持ちに寄り添える子に。人気者よりも深く繋がりあえる親友を一人でも見つけられる子に。頼りない親ではありますが、そんな子を育て続けていけるよう精進してまいりたいと思います。 

 

  

※5月28日東京都江戸川区・ホテルシーサイド江戸川にて行われる受賞式に出席してまいりますので、その際にはまた改めてこちらのブログでもご報告させていただきたいと思います。

 

詩「ホーム」が朗読されました

先日「かくれんぼ」という詩を朗読してくださった優実さんが、

今度は「ホーム」を朗読してくださいました。

前回とはまた違った雰囲気で、その声の使い分けにも驚かされました。

作品に新たな命を吹き込んでくださって感激です。

どうもありがとうございます。

 

note.mu

「詩と思想」に掲載されました

                     f:id:sekineyuji:20170302095640j:plain

 

3月2日発売『詩と思想 3月号』(土曜美術出版販売)

に詩を寄稿しています。

今号のテーマは<hello & good-bye>ということで、

「挨拶の言葉を含む作品」という条件のもと

僕は『ゼツメツ』という詩を書かせていただきました。

P.80に掲載されていますので、読んでいただけたら幸いです。

よろしくお願い致します。

 

 

詩と思想 2017年 03 月号 [雑誌]

詩と思想 2017年 03 月号 [雑誌]