「100歳詩集 逃げの一手」 まど・みちお

昨年まど・みちおさんが100歳になったのを祝して
刊行された詩集です。
太宰治さんと同じ年に生まれたんですね)


百歳ともなれば、達観した視点や説教めいた
物言いになるのかと思いきや、むしろ逆で
まど・みちおさんが世界や自然に向ける視線
というのは、一貫して謙虚です。
そして、どの作品も瑞々しい。
そこが僕にはたまらなく魅力的です。
そして、月並みな言い方になりますが、
「こんな風に年をとれたらな・・・」と思います。


お年寄りというのは、穏やかに花鳥風月をうたう
ものだろうなどと思っている方々は、この本を
読むとそんな予想も覆されることになります。
「事故隠し」「憲法九条」「死刑制度」などと
いった社会問題も盛り込まれたりしていて。
しかし、あくまでもさりげなく。


またどの作品も、まどさんが日常の中で見つけた
「新発見」にあふれています。
詩の神髄はレトリックや難解さにあるのではなく、
「発見」にあるのだと思い知らされます。


僕が特に好きなのは「人間の景色」「休みずき」
「オレは無学だ」の三篇。


中でも「休みずき」は何度読み返しても
ため息が出るような素晴らしい詩で、
これは、「まど・みちお」と「百歳」の
二つの条件が結晶しない限り生まれ得ない、
奇跡の名作だと個人的には思います。


全編を通じて、目の前でまど・みちおさんが
ゆっくり語りかけてくれてるような
「うー」とか「うへ」とか「フー・・・」といった
息遣いまで感じられるような詩集です。


ところで、この詩集とは関係ありませんが、
まど・みちおさんの(というか日本の童謡史上の)
最高傑作って「やぎさんゆうびん」だと思いませんか?


僕、あの詩大好きなんですよね。
子どもの頃からずっと。
ミステリアスでコントラスティヴでエンドレスで。
尚且つ、「いかなる文化も食欲には勝てない」的な
生きるものの真理まで盛り込まれていて・・・。
今、口ずさんでみても、無限の想像が広がって
胸がドキドキします。


100歳詩集 逃げの一手

100歳詩集 逃げの一手