「幻・方法」 吉野弘

昔から大好きな詩集で何度も読み返しています。


この詩集は四部構成で成り立っていて、
前半部(ⅠとⅡ)は、主に労働者の苦悩を描いた
と思われる作品が載っています。


この前半部は、正直なところ、読んでいて
息が詰まるような重い気分になります。
縛られて、道具と化している人々の苦しみが
ひしひしとと伝わってきて。


ところが後半部(ⅢとⅣ)に入ると、
作品の表情ががらりと変わります。
子どもや、自然や、優しい人間など、
イノセントなものを題材とした作品群。
しかも、どの作品も平明で読みやすい。
僕が特に好きなのはこの後半部です。


吉野さんの代表作とも言うべき、非常に有名な


「I was born」
「奈々子に」
「夕焼け」


は、いずれもこの詩集に収録されています。


「I was born」は何度読んでも鳥肌が立ちますし、
「奈々子に」は読み返すたび、涙腺を刺激されます。


そして「夕焼け」は、僕にとって常に目標のような
作品です。こんな詩を書きたいといつも思います。
たしか最初に読んだのは中学生の頃でした。
きっと多くの方が教科書などでも読まれたことが
あるのではないでしょうか。
(満員電車で娘がお年寄りに席を譲ったり
譲らなかったりするあの詩です)


他にも個人的には


「岩が」
「雪の日に」


も非常に好きな詩です。


詩を読みなれていないとか、難しい詩に抵抗がある方は、
後半部(Ⅲ以降)から読み始めてみてもいいのでは
ないでしょうか。
名作が盛りだくさんの贅沢な詩集です。


幻・方法 (愛蔵版詩集シリーズ)

幻・方法 (愛蔵版詩集シリーズ)