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「深呼吸の必要」 長田弘

僕は「散文詩」というものがあまり好きではないのですが、
この詩集に限っては何度も繰り返し読んでいます。


特に前半の『あのときかもしれない』のパートが好きで、
これは「きみはいつおとなになったんだろう」という問いかけと、
それに対する八つの解答で成り立っています。


僕は卒業論文に、サリンジャーの小説を絡めながら
「大人と子どもの境界」ということについて書いたのですが、
この詩集はまさにその疑問について、
八つの光を当ててくれているような気がします。


この散文詩はすべて「きみ」という二人称に宛てて書かれていて、
その「きみ」は男の子であることが示されていたり、
ごく個人的なエピソードを元にしている部分もあることから、
おそらく幼少の頃の筆者を指しているのだろうと思われるのですが、
不思議と自分のことを言われているように感じるのです。
「どうしてこの人は僕が子どものころに体験したことや
感じたことを知っているのだろう・・・」と。


個人的なことを綴った作品が、ある種の普遍性を持つ。
それこそ文学の、あるいは芸術の最も素晴らしい点の
ひとつではないでしょうか。


大人と子どもの境界についての疑問を、
僕は以前「あのあおいのは」という詩の中で、
空と宇宙の境界にたとえながら書いたことがあります。
それを谷川俊太郎さんに見ていただいたときに、
空と宇宙の境界について、目から鱗が落ちるような
たいへん有意義なお話を聞かせていただきました。


そして、大人と子どもの境界ということについての
目から鱗が落ちるような答えは、まさしくこの詩集の
中に書かれています。


僕にとっては、長田さんと谷川さんこそが
その永年の謎に見事な光をあててくださった師
というような気がしてなりません。
と手前勝手に思っているわけですが・・・。


「いつおとなになったんだろう?」


そんな疑問を感じたことのある方なら誰しも
この本を読んだときに


「あのときかもしれない」


と思い当たることがあるのではないかと思います。


緑色の文字で印字され、パッと見「これって詩?」と
感じるような、他にあまり例のない詩集ですが、
万人の胸にある「少年」を蘇らせてくれる一冊です。


そして『深呼吸の必要
なんとも素敵なタイトルですよね。



深呼吸の必要

深呼吸の必要