「雲の映る道」 高階杞一

高階杞一さんはとても好きな現代詩人の一人で、
以前このブログに書いた『キリンの洗濯』と、
この『雲の映る道』は何度も読み返しています。


どの詩もたいへん分かりやすく、とてつもない想像力と
ユーモアに満ちているのですが、どこかほろ苦く物哀しい。
詩の中で、ある種ファンタジックなことが巻き起こるのですが、
それが不思議と生活に密着したリアルさを伴う。
読んでいると、まるで魔法にかかったようにその世界に
引き込まれていくのです。


冒頭からいきなり


忘れ物をした電球が
犬を連れて帰ってくる
「何を忘れたか 忘れてしまった」 (「電球」)


といった具合で、「お、なんだ、なんだ?」と
興味を揺るがされるや否や、一気に最後までその世界に
持っていかれてしまいます。


「絆創膏」「塩」「金魚の昼寝」と立て続けに
ぶっ飛んだシチュエーションに圧倒され、しかも
その中で描かれている女性(妻あるいは母)が、
いずれも残酷で大胆で現実的すぎてゾクッとさせられます。


どの作品も、書き出しの惹きつけ方もさることながら
シチュエーションの設定がすごいんですよね。


電球は犬を連れて帰ってくるし、
寝ようとすると丸顔の男が枕元に正座しているし、
朝突然名前を呼ばれて羽黒山との対決を発表されるし、
子どもを探してたらたくわん石の下から出てくるし、
空から文字が落ちてくるし、桃から生まれるし、
靴下の穴から顔をだした親指があいさつしたり、
殺し屋になったり、神さまが地球の皮をりんごのように剥いたり・・・。


終始「高階ワンダーランド」をめぐらされるのですが、
なんと言ったらいいでしょう。その摩訶不思議な世界は
「ディズニーランド」というよりは「サーカス」のように
どこか物悲しさを孕んでいるのです。



雲の映る道―高階杞一詩集

雲の映る道―高階杞一詩集