「愛情69」 金子光晴

もし、日本で特に好きな詩集を三つ選べと言われたら、
僕はその一つにこの詩集を挙げます。


主に女性や愛について書かれた69編の連作詩で
編まれていて、どの作品からも匂い立つような
なまめかしさが伝わってきます。


73歳の時に刊行された詩集とのことですが、
そういう御年でこういった詩を書かれた
金子光晴さんに、ただただ憧れるばかりです。


「愛」とか「愛情」を定義することは
おそらく不可能です。
それでも、歴史上、多くの画家や音楽家や小説家や
詩人たちはあえてその難題に挑んできました。
僕はその追究の過程、あるいはその人なりの
示し方というものに強く興味を惹かれます。
「定義」というと語弊がありますが、
「限りなく近づこうとする姿勢」のようなものに。


そして、僕はこの詩集からその「姿勢」、
もっと言うと「熟した姿勢」を突き付けられ、
読むたびに己の未熟さに打ちのめされるのです。


さて、もちろん通して読んでこその詩集ですが、
無礼を承知の上で個人的に好きな詩篇
挙げさせていただくと


「愛情1」「愛情3」「愛情20」
「愛情26」「愛情60」「愛情69」


といったところでしょうか。


特にエピローグを飾る「愛情69」は、
何度読み返しても、その美しさ切なさに
打ちのめされます。
いったいこの世のいかなる男が、
蒲団に残された女性の陰毛を
ミシシッピイ川に喩えうるものかと・・・。


と、ここまで書いてきて恥ずかしい限りですが、
実は僕はまだこの詩集を詩集として所有する
ことが叶わずにいます。


1968年に限定1500部で出版された「愛情69」は
現在たいへん入手困難で、古書でも高額のプレミア
がついているのです。


いつか、なんとか単独の詩集として入手
できないものかと目論んではいるのですが、
ひとまずは講談社文芸文庫の「女たちのエレジー」
という文庫本の後半に「愛情69」の全文が
そのまま掲載されていますので、そちらを
ご紹介しておきます。
僕も、現在はその文庫本で読んでいます。



女たちへのエレジー (講談社文芸文庫)

女たちへのエレジー (講談社文芸文庫)