「測量船」 三好達治

「惹かれる」というよりは、むしろグイと強く
「引っ張られる」ような魅力を持った詩集です。
何度手にとっても、その都度何かに取りつかれたかの
ようにむさぼり読んでしまいます。


三好達治さんの詩は、その「リズム」や「抒情性」と
いった側面から語られることが多いようですが、
むしろ僕は、風景が目の前にありありと浮かぶような
情景描写の巧みさに脱帽します。


この詩集には、かの有名な「乳母車」や「雪」
も収められています。
「雪」は、本当に素晴らしいですね。
たった二行でこれほど果てしない想像を
喚起される作品は後にも先にもないのでは
ないでしょうか。


他にも僕は特に「鴉」「夜」「庭」
(この詩集には「庭」というタイトルの
作品が三つ登場しますが、しゃれこうべ
掘り起こしてしまうやつ)などが好きです。
いずれも非リアルでありながらリアルな風景が
眼前に広がります。


そしてなんと言ってもすごいのは「燕」。
この詩、本当に好きだなあ。
こんな詩が書けたらなあ。


近代詩って、旧かなづかいだったりすることで
「難しい」「読みにくい」と抵抗を示される方も
多いと思いますが、三好達治さんのこの詩集は、
今の「難解でなんぼ」みたいないわゆる「現代詩」
よりむしろずっと読みやすく、心に染みやすいと
思いますよ。


いわゆる「文学史」というくくりの中で
名を残している詩集ってごくわずかですよね。
春と修羅」とか「海潮音」とか「智恵子抄」とか。
「測量船」もそのひとつだと思うのですが、
こうして読み返してみると、歴史に名を残す詩集には
やはりそれ相応の何かがあるのだなあと
妙に納得してしまいます。


読み返すたびに違った表情を見せてくれる
大好きな詩集です。



測量船 (愛蔵版詩集シリーズ)

測量船 (愛蔵版詩集シリーズ)