「ONLY PLACE WE CAN CRY」 銀色夏生

高校生の頃、僕のクラスでは銀色夏生さんの色々な本が
回し読みされていました。
たしか最初に女子の誰かが一冊回し始めて、それが皆の手に
渡るうちに次々とファンが増殖し、色々な人が買って
それをまた貸し借りして・・・という風に。
それで一時期僕のクラスでは男子も女子も
銀色一色(?)になったことがありました。


ティーンエイジャーの僕らにとって共感できる作品が多く、
皆で本を囲みながら「この気持ち分かるよね」とか
「私の気持ちそのまんまだよ」なんて語り合いもし。
そんな風に高校生が夢中になって語り合うことができる詩集
というのは他に例がない気がします。
そんなわけで僕も当時銀色さんの著作はすべて読みました。
僕らにとってのバイブルでした。


いわゆる「現代詩」とか「詩論」といった話題になると、
何故か銀色夏生さんの名前が挙げられることが少ない気がして、
僕はそれをとても残念に思うのですが、それはおそらく
銀色さんの作品や本が「詩」や「詩集」という枠組みを超えて
銀色夏生」としか呼び様のない個性を放っているから
ではないでしょうか。


このような本を作る人は銀色夏生さんの前には
いなかったように思います。
ある意味で、新しいジャンルを確立された方です。
と同時に「ポスト銀色夏生」はいまだに現われていない
気がします。


故に銀色さんの本はいまだに唯一無二の光を放ち続けている。


とにかく「言葉」も「写真」も「本の作り」も
すべてにおいて、銀色さんの息遣いが伝わってくるような
手作り感に溢れていて親しみを感じるんですよね。
そして、すべてにおいてセンスがいいといいますか。
それはときに「イノセンス」というセンスでもあり・・・。


あと「恋の詩」については、やはり銀色さんの右に出る者は
いないのではないかという。
僕は多くの人の共感を得る「恋の詩」を書くというのは
非常に難しいと思うのです。
どうしても個人的な思い入れが入ってしまうため、
よほど卓越したセンスがないと日記みたいな作品に
なってしまいがちです。
(実際、文学賞をとったり詩誌に掲載される「恋の詩」
というのは非常にまれなのに対して、ネット上のブログ
などは「恋の詩」だらけです)


しかし、銀色さんの「恋の詩」は非常に具体的なシチュエーション
が設定されているにも関わらず、多くの若者たちが共感を得ている。


今回挙げさせていただいた「ONLY PLACE WE CAN CRY」は、
数多い銀色さんの本の中で、僕が最も多く読み返した一冊です。
おそらくこれまでに50回くらい。
活字や手書きの文字や写真がコラージュのように見事に
配置されていて、一冊の本としての生命感に満ちています。
通して読むと、上質のロードムービーを観ているような
感覚に陥ります。


僕は昔から「僕があなたを好きだったのは、他のどんな愛も
いらないという気にさせてくれるからだった」で始まる一編と、
「ジンくん」というショートストーリーが特に好きです。
「そして僕は 途方に暮れる」も。


大人になった今でさえ共感し、胸の奥の方を揺るがされます。
無防備で不器用だった十代の頃と同じように。


ONLY PLACE WE CAN CRY

ONLY PLACE WE CAN CRY