「屋上で遊ぶ子供たち」 辻仁成

大学生の頃、数え切れないほど繰り返し読んだ
辻仁成さんの第一詩集です。


久々に読み返しましたが、当時あまりに読みこんでいたので、
今でも暗唱できるのではないかというくらい
ひとつひとつの詩をよく覚えていました。
好きなフレーズがいくつもあります。


当時僕はちょうど自分の一冊目の本を書いていたので、
この詩集の影響をかなり受けているつもりでいたのですが、
今読むと、影響を受けるどころか辻さんの足元にも
及んでいないことを改めて思い知らされました。
ただ、僕にとってひとつの目標であったことは確かです。


懐かしい曲を聴くと、当時の自分がフラッシュバック
することがあるように、この詩集を読むと自分が
二十歳だった頃のことがふと蘇ります。


ひとり暮らしをしていた六畳一間のアパートで僕は、
数百円で買える「新潮文庫夏の百冊」を片端から読み、
サリンジャーやフィツジェラルドに胸を焦がしました。
詩集は高く、当時の僕には貴重なものでしたから、
一冊買うと何度も繰り返し読みました。
その中のひとつが『屋上で遊ぶ子供たち』でした。


そして、授業もろくに出ず、詩のようなものを書いては、
質流れの巨大なワードプロセッサーに打ち込み、
感熱紙に印刷して、自分の書いたものが活字になる
擬似体験のようなものに興奮しました。
それが、次第に本を書きたいという夢に繋がって
いったように思います。


なんだかノスタルジーに浸ってしまいましたが、
そんな青春期の一冊と呼べるような本を持っていることは、
自分にとって幸せなことだと改めて思います。


今、そんな手垢まみれの一冊を前に置きながら
この文章を書いていますが、辻さんの詩もさることながら、
望月通陽さんの手による装丁も大好きです。
絵も題字も、そこから匂い立つ雰囲気も。


こんな本が書きたいという気持ちは、二十歳の頃も
今も変わりがありません。


屋上で遊ぶ子供たち

屋上で遊ぶ子供たち