「詩のこころを読む」 茨木のり子

詩集というよりは、詩の入門書とか手引書といった内容で、
様々な詩を紹介しながら茨木さんの文章が添えられています。
1979年に刊行されて以来多くの人に愛されつづけ、
すでに72刷と版を重ねた不朽の名著。


この本が大人からも子どもからも長く読み継がれているのは、
紹介されている数々の名詩もさることながら、やはり
茨木さんの文章が的確で美しいからではないでしょうか。
「うん、うん」と納得しながら読み進められます。


茨木さんによって選出され、ここで取り上げられている詩は、
次の世代にも、また次の世代にも読み継がれてほしい作品たちで、
いずれも敷居の低い、簡単に読めるものばかりです。


谷川俊太郎さんの「かなしみ」「芝生」
吉野弘さんの「I was born」「生命は」
辻征夫さんの「春の問題」
新川和江さんの「ふゆのさくら」
川崎洋さんの「海で」
工藤直子さんの「てつがくのライオン」
石垣りんさんの「くらし」
中原中也さんの「羊の歌」


などなど、日本の詩のベストコレクションといったような
ラインナップ。それに茨木さんの視点が加わる
わけですから、これ以上の贅沢はないといった内容です。


僕は今回読み返してみて、黒田三郎さんや阪田寛夫さんの
作品に改めて惹かれるものがあり、これから詩集を読んでみたい
と思っています。それと、永瀬清子さんの「悲しめる友よ」
という詩に思わず涙を流してしまいました。
そんな風に読み返すたび発見のあるアンソロジーでもあります。


茨木さんが(おそらくは相当な労力で)書かれたこの著は、
詩を好きな人にとっても、そうでない人にとっても、
これからも長く読み継がれていく本に違いありません。


上記に記した作品はこの本で味わっていただくとして、
最後にこの本の中で茨木さんが取り上げている
谷川俊太郎さんの言葉をご紹介します。
個人的にたいへん共感して、座右の銘にしている言葉です。




詩人が人々に供給すべきものは、感動である。
それは必ずしも深い思想や、明確な世界観や、鋭い社会分析を必要としない。
むしろかえって、それらが詩人を不必要にえらぶらせ、
そのため詩の感動を失わせることが少なくない。
詩人は感動によってのみ詩を生み、
感動によって人々とむすばれて詩人になるのである。


詩のこころを読む (岩波ジュニア新書)

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